自分のキャリアストーリー

【4話完結】人材紹介と私/第4話:社会に灯をともしたい

人材紹介の仕事は、たくさんの人の人生に深く関わりを持つ仕事である。望んだ転職が実現して相手から感謝されるときもあれば、採用に至らず本人の落胆を目撃することもある。人材紹介の仕事は、人生の岐路に立つ人に対して、そっと松明(たいまつ)を手渡す仕事であり、まさに社会に灯(あかり)をともす行為そのものではないだろうか。最終回の第4話では、人材紹介の仕事と出会いが、私自身の考え方や生活に与えた影響について書きたい。

人材紹介の仕事を始めて間もなく気づいたことは、この仕事は、一人の人間としての品性や成熟度、勤勉さやモラルなどが問われているということだった。特別な知識や資格、過去の学歴や職歴などに守られた職種ではなく、誰でもいつでも、ほぼ無条件で始められるがゆえに、一人の人間としての力が試されている。

大企業や大資本が有利なわけでもなく、強力なブランドがあるわけでもない。エージェントと言われる職種であり、ものごとを仲介する仕事であるがゆえに、人と人をつなぐときに使用する「コミュニケーション」が商品であり、サービスそのものである。

コミュニケーションは、主に言葉で行われる。ここでいう言葉は、人間が発する言葉であるため、人間の信頼性や知性が問われることになり、実際には言葉の選び方、言葉を発するタイミングなどで、コミュニケーションの質が決まってくる。

ではどうすれば質の高いコミュニケーションができるようになるのか。人をその気にさせる(相手の話に乗ると言い換えてもいい)のが上手な人がいる。人材紹介の仕事では、とても役に立つ資質である。人はどのような時にその気になるかと言えば、その話が、自分にとっていい話だと思うからだ。つまり、相手が何を求めているのか、そこを正しく理解できることが、すべての出発点である。

人材紹介の仕事の難しさは、求人企業が個人に求めていることを把握するのと同時に、転職活動をしている個人の希望を理解したうえで、双方の折り合いがつくような状況を作り出すところにある。よって、それぞれが配信する情報を相手がわかりやすいように整理して伝える調整力が大事であり、まさにこの時にコミュニケーション能力を発揮する必要があるのだ。難しい仕事であるがゆえに、それがうまく行った時は、まるで社会に灯(あかり)がともったような、すがすがしい気持ちになれることが人材紹介の仕事の魅力ともいえる。

人材紹介の仕事を通して学んだことで、私が自分の人生に一番役立ったと思うのが、こうした調整力である。ものごとの調整をするには、粘り強さ、謙虚さ、勤勉さなどが特に問われる。それがゆえに、人材紹介のサービスは受益者からの厳しい視線が常に付きまとうのである。優れた人材コンサルタントは、売り上げが高いだけでなく、サービスレベルの質の良さがゆえに受益者からの評価も上々である。

人材紹介の仕事がきっかけで、人材育成の仕事にも注力するようになった経緯は、第3話のコラムで詳しく述べた。私にとって人材育成の仕事がライフワークとなった理由は、人材紹介の仕事を通して身に着けた調整力がベースにあり、それを支えるコミュニケーション力を研鑽する日々があったからである。

人材紹介の仕事を通して出会った多くのビジネスパーソンとのコミュニケーションの蓄積は、私自身のビジネススキルの向上を実現させたことに加えて、人生との向き合い方にも大きな影響を与えた。人材紹介の仕事と出会えたおかげで、プロフェショナルな仕事についても、自分なりにも深く考えるようになった。

4回にわたり、「人材紹介と私」という切り口で、人材紹介が自分個人に与えた影響についていろいろと振りかえってみたが、これから人材紹介の仕事を始めるという人、そして、今後も人材紹介の仕事を続けるか迷っている人などにとって、私のケースが何らかの参考になることを願い、今回の企画はここで終わらせたいと思う。最後まで読んでくださった全ての人に感謝を申し上げたい。これからも、人材紹介の仕事と関わりながら、少しでも多く社会に灯(あかり)をともす仕事を続けていきたいと思う。