自分のキャリアストーリー

【4話完結】人材紹介と私/第2話:免許皆伝への道のり

人材紹介の仕事で一人前の結果が出せるようになるまで、どのような道のりであったか、コツをつかんだきっかけや失敗したことについて書く。この仕事でやっていけると思ったのは、どのタイミングであったか、いわゆる免許皆伝したと実感できた時の思いを率直に書く。

【免許皆伝】めんきょーかいでん
〘名〙 武術や芸道などで、師匠が弟子に、その道の奥義を残らず伝え、その修了を認めること。

人材紹介の仕事を始めてから、私には特定の師匠との出会いはなかったのですが、いろいろな人々(顧客、求職者、同業他社のコンサルタント、日本人・外国人問わず)の出会いを通してたくさんの教えを授かり、人材紹介の免許皆伝を実現しました。といっても、これは自分自身の実感の話であって、人材紹介の仕事を始めて約5年が経過したころのことです。

2006年、私は自己ベストの売り上げをあげることができました。この仕事で食べていける、十分な数の顧客がいて、重要人物とも多数つながり、質の高い求人情報を手元にたくさん持っていました。当時、私は製造業の管理職求人(特に自動車関連業界の技術管理職を中心に)に注力していました。(私のプロフィールとビジネスポートフォリオの詳細は、過去の投稿記事でご確認ください。)

もちろん、最初からうまくいったわけではありません。むしろ人並み以上に苦労し、いろいろ失敗もしました。売り上げが上がらない苦しい時期もあり、この先どうなるのか、この仕事を続けていけるのか、不安に思ったことも何度もありました。

私の人材紹介のキャリアは、外資系人材紹介会社で始まりましたので、わたしを取り巻く環境には、「稼がないと会社に残れない」空気がありました。実際、売り上げが低迷したコンサルタントは誰一人として会社に残れず、人の入れ替わりの激しい職場でした。それがゆえに、悪い手本はたくさん見ることができたため、私の学び方は「反面教師型」(こうしてはダメ)を繰り返し見るところから始まりました。

一方、悪い手本ばかり見ていても自分の腕はあがりません。では、どうやって良い手本を見つけたかですが、私が恵まれていたと思うのは、出会った顧客や求職者のレベルが高かったことです。つまり、業界知識や会社や競合者情報、特定の職種(たとえば技術管理職)のキャリアパスの考え方、就労観や社会貢献意欲などは、常に顧客や求職者が私の師匠でした。その結果、顧客や求人案件の評価、そして求職者の評価などは、特定の業界(例えば自動車関連産業)の経営者や面接官にかなり近いレベルで、正確に評価できるようになりました。

では何が足りなかったかと言えば、当時の私にはロールモデルとなる先輩コンサルタントの存在がありませんでした。社内では、売り上げの高いトップコンサルタントの仕事ぶりを見ることができず、その点に困りました。上司の外国人社長は、経営管理の経験はあっても、人材コンサルタントとしての実務経験が乏しいか(全くない人も複数いた)、経験があっても皆外国人であったため、日本人の就労観やキャリア感からは程遠いケースが目立ちました。そもそも日本市場に有力な顧客ベースを持っておらず、在籍期間も1年未満というケースばかりだったため、一緒に営業活動をする機会をほとんど持てず、上司から人材紹介実務のノウハウを学ぶ機会が私にはほとんどなかったのです。

業界知識や企業・競合者・求人情報などに関する師匠は、顧客や求職者の中にたくさんいたにもかかわらず、人材コンサルタントとして、売上を上げるための各種ノウハウ(たとえば目標管理と行動計画等)については、自分で試行錯誤しながら、やりながらコツをつかむしかありませんでした。

ただし、悩んでいる時間はあまりありません。給料をもらいながら働いているため、結果を早く出すことが求められました。求人案件は何件必要か、求職者には何人会うべきか、一人当たりの求職者には何件程度の紹介をするのがいいのか、書類選考や面接の通過率はどの程度を目指すべきか、売り上げのサイクル期間はどの程度か、これらは一つひとつがとても重要なことです。人材紹介の仕事のリズムが理解できるようになった後は、これらの質問に明確に答えられるようになりましたが、始めた当初はコツがつかめず、困った時期もありました。それがあって私が二度目の起業をすることを決めた際、人材紹介の仕事を自らするだけでなく、人材紹介事業を立ち上げる新規参入者や人材紹介ビジネスの初心者や経験の浅いコンサルタントを支援するために、人材紹介事業を支援する仕事も同時に始めました。

初めて人材紹介の仕事を始める時、企業の採用ニーズがあること、業界が成長していることなどを理由に事業を始める人がいます。開業時に、既に顧客との人脈や複数の求人案件を持っている人もいます。その業界出身であるため、人材の目利きもできる人も多く、そうした人にとって人材紹介ビジネスは始めやすい新規事業に見えるはずです。

人材紹介の仕事では、業界や求人案件への理解、人脈が大切なことは間違いないのですが、最も大切なのは、有力な求職者を継続的に集めることができるかどうか、全てはここにかかっています。求職者が見つけられなければ、どんなに顧客のニーズや業界知識を理解していても、サービスが成り立ちません。つまり、売り上げの高いコンサルタントは、企業が求める人材を継続して集めること、見つけることができるから、売り上げが高いのです。どうしたら、企業が求める人材を集められるか、そこがコンサルタントのノウハウであり、もちろん簡単なことではありません。色々な仕掛けを作り、勉強し、行動し、相手の信頼を勝ち取る献身的で継続的な努力が必要なのです。

人材紹介をする人に、必ず覚えていてほしい言葉があります。

Candidate become Client, and Client become Candidate.
(求職者は顧客になり、顧客も求職者になる)

人材紹介の仕事を長く続けている人ならば、誰もが経験したことがある、この黄金律(ゴールデン・ルール)が、しっかりと機能していることを実感できた時、私は自らに対して免許皆伝できたと実感できました。このことを共感してくれるコンサルタントは、業界にはとても多いのではないかと私は思います。

求職者の中には、いかにも優秀なオーラが出ている人もいますが、そうではなく、一見地味で、いろいろ失敗を繰り返している人、必ずしも書類選考や面接の通りがよくない人もいます。私が人材紹介の仕事を始めて間もないころ、実はとても運がよく、ある出来事が起きました。それはたまたま面談した求職者の方が、約1か月後に転職先が決まった後に(私が紹介した会社ではなく、他のコンサルタントが紹介した会社に転職決定)、私に連絡してくれたのです。正直なところ、面談した時点では、それほど印象に残る人物ではありませんでした。実際、求人案件を紹介しましたが、最終的に面接の途中で終わってしまい、その方の転職の実現を最後まで支援して差し上げることができなかったのです。

しかし、その方は新しく入社した会社で部長職にあったのですが、入社してすぐに部下の課長職の人物を社外から採用することになり、私に声をかけてくれました。「転職活動中に、とてもお世話になったから」と言ってくれました。その時、私は気づきました。Candidate become Client(求職者が顧客になった)、まさにその瞬間だったのです。

人材紹介の仕事を始めて間もない頃、今度はある人事部長から新しい求人案件の募集要項の説明を聞いていた時、その話の最後に「実は転職をしたいと思っていて、相談に乗ってくれないか」と言われました。Client become Candidate(顧客が求職者になった)の瞬間です。このケースでは、運よくこの人事部長の転職を私の支援で実現ができました。言うまでもないですが、この人事部長が転職した先でも、その後末永く、私は新規案件を担当するコンサルタントとして指名され続けたのです。この経験を通して、その後の私は、今後も同じことが再現するよう日々何をすべきか、そのことを常に考えるようになって、日常業務の目標がはっきりと定まりました。

私が運がよかったのは、人材紹介のゴールデン・ルールである「Candidate become Client, and Client become Candidate eventually」の教えを、この仕事を始めた初年度に経験できたことであり、そのおかげで、私は全ての出会い(顧客も求職者も)を全力で取り組むようになり、どんな時も相手との信頼関係を築くことを第一目標に掲げることにしました。信頼関係を築くというのはいうのは簡単ですが、実のところはとても難しいことであり、相手に尽くしたから、誠心誠意取り組んだから必ず報われるとも限りません。損得勘定もはさまりますので、私のサービスを通して相手の方が明確に得をしたと思って頂けるよう、常に適切なポイントを見極めながら、プロデュースしなければならないことを学びました。それはとても繊細で、時に情緒的なものでもあり、逆に待遇アップのような、実利的な成果を伴うことも多々あります。優秀なコンサルタントを目指すなら、求職者を高く売れるようになることが大切であり、その逆もあります。つまり、企業のためには、とびきり優秀な人材を市場価格以下で採用を実現させることも大事だということです。

人材紹介の仕事で成功するためには、並大抵の覚悟では足りません。私自身、フォローが遅れたり、些細なことでもそれを見落としたことで対応が全力投球とならず、相手の信頼を失ったり、相手の方の真意が読めなかったりしたことが原因で、売り上げを逃してしまったことが何度もあります。わかっていたはずなのに失敗するということは、理解の仕方が甘かったということです。他人様の信頼を得ることには大変な努力が必要で、時間もかかりますが、逆に信頼を失うのは、ほんの一瞬の気のゆるみで起きてしまいます。

人材紹介の仕事の面白みは、こうした信頼関係を構築するプロセスにあり、苦労した結果、相手の方が自分を信頼してくれているとわかった時には、大きなやりがいを得ることができます。それは時に相手が自分より年長者だったり、能力が高い人であっても起きることもあります。逆に、まだ経験の浅い若い人や、何らかの理由で困っていた人を支援できた時にも、自分が力を貸したことで相手の人生が好転したと実感できる時もあり、その時は相手の方と一緒になって嬉しさを共有できるものです。もちろん、目標とする売り上げを超えて会社や上司に評価されたり、同僚や後輩から称賛されることも嬉しいものです。

人材紹介の仕事には、たくさんの忍耐力が求められますが、やはり話がうまくまとまった時、そして取り組んだ案件が成約した時には大きな達成感を持てます。採用する企業の経営者や管理職、もしくは若手の担当者とのコミュニケーションを通して自分が貴重な学びを得ることも多く、彼らは顧客であると同時に仕事のパートナーとして、とても大切な存在となります。特に長い年数おつきあいしている方々、求職者として出会った後に顧客となった方々、またその逆の方々などは、ある意味、自分にとって一生の友であり、戦友のような存在にもなります。

人材紹介の仕事で免許皆伝するまで、まだ道のりは長いと思う方もいるでしょうが、常に創意工夫を重ね、いろいろな人々から謙虚に学び、独自の戦略をひねり出すために汗をかける人であれば、近い将来、必ず免許皆伝する日が来ます。その日を信じ、様々な場面で師匠となる人物を探し続け、自分のスキルを高めて、皆さんが人材紹介実務のノウハウを蓄積してくださることを願っています。そして、いつの日か、その経験やノウハウを後輩や後発で人材紹介事業を始められる方々へ伝承してくださる輪に加わってくだされば、人材紹介業界の発展につながりますので、今後ともお互いに精進しましょう。