All About (更新日:2021年1月26日)に掲載された記事を紹介する。
日本でも「通年採用」「ジョブ型雇用」が一気に進
本記事は、新卒採用に通年採用やジョブ型雇用が増えている傾向について考察したものだが、本稿では日本の新卒採用に変化が起きた時、人材紹介業にどのような影響が生まれるか、そのことについて書いてみたい。
日本特有の新卒採用は4月一斉入社を前提にしており、大学生が卒業する18カ月前にあたる3年生の10月ころから約9~12カ月をかけて、集中的に企業が採用活動をする慣習があることは周知の事実である。経団連が就活ルールを定め、企業間の過剰な青田買いの競争を抑制してきたが、通年採用やジョブ型雇用等に代表される新卒採用の多様化が進行する今、就活ルールも無くなる方向にある。
さて人材紹介会社の中には、新卒採用の業務支援をする会社もある。ただし、たくさんある人材紹介会社の中で、新卒採用に取り組んでいる会社は、まだ少数である。就活生としては、直接企業の採用ホームページにエントリーする場合と、一部の企業が人材紹介会社に新卒採用の採用業務代行を依頼しているケースがあるので、学生は人材紹介会社を経由して企業に応募している場合がある。新卒採用の採用業務が外注されるケースは、まだその割合は低いが、今後通年採用に新卒採用がシフトしていく場合、自前で年間を通して新卒採用の採用業務に対応することは非効率であると考える企業はあるに違いない。4月一斉入社を強行してきた背景の一つに業務の効率化を実現する目的があったことを考えれば、通年採用は明らかに業務的に非効率であるため、自社社員でやるよりは、必要に応じて外注したほうが対応しやすいのかもしれない。
次に新卒のジョブ型雇用であるが、これは業務効率的には、むしろメンバーシップ型雇用(配属先を明示せずに学生を採用して、あとから仕事を割り当てる雇用方式)に比べて、いろいろなメリットが考えられる。メンバーシップ型雇用は、採用される学生にとっては就職というよりもむしろ就社である。入社時に出した希望がおおかた通らないという経験をする学生が多発するメンバーシップ型に比べて、少なくてもジョブ型雇用であれば、自分が希望する職種に応募して採用されていくため、配属によるミスマッチはメンバーシップ型雇用よりは格段に減る可能性が高い。もちろん、学生がどの程度自分の適性や業務内容を把握できるか、その点には疑問が残る。また、マーケティングや企画のような若者間でイメージのいい職種への応募者が極端に増えて、営業や顧客サービスのような職種を避ける学生が増える可能性も高い。その場合、職種によっては企業が求める能力を持った若手人材を十分に確保できない状況が起きるかもしれない。また、人気職種の競争率が高まることで、結果的に学生の就職難につながる可能性もある。総合的に見れば、従来のメンバーシップ型雇用の方が、企業と学生の双方にとって都合がいいという側面もあるのかもしれない。ただし、入社後3年以内に3割の学生が会社を辞めてしまうという話があるように、配属のミスマッチが企業と若手社員の双方に不幸な結末を引き起こしている事実もある。自分の経験や実績、そして興味に沿って希望する企業や仕事選びができる中途採用はジョブ型雇用そのものであるゆえ、多くの企業による新卒採用も、今後はジョブ型雇用に舵を切っていくのではないだろうか。潜在能力の高い新卒の学生を多数採用して、時間をかけて自社で育成していくというメンバーシップ型雇用を維持するだけの余裕が企業にはないことも、この流れを後押ししている。
このように、新卒採用は通年採用とジョブ型雇用のセットで変化を遂げていく。必要なポジションが空いたときに採用をするのだから、当然年間を通して採用は行われるということだ。第二新卒と言われる若い年代の中途採用と同じような感覚で、今後は新卒採用に人材紹介会社の参入が広がっていく可能性を指摘しておきたい。つまり、就活ルールがなくなり、企業の青田買いが早期化して競争も激化していく反面、若い世代は少子化も進んでおり、AI活用が高度化し、IT化による業務の効率化も加速していく。仕事経験のない新卒の大量雇用を不要と考える企業も増えていけば、新卒の一斉採用数も減っていくかもしれない。これは学生の就職難を一時的に引き起こす心配もある。しかし、海外学生のように、学生達は在学中からもっと社会体験を積み、社会における企業活動を意識した大学生活を送るようになり、早い時期に就職先の内定を確保して、在学中から企業活動にも参加していく学生が増えるかもしれない。
人材紹介会社のサポートを必要と考える大学生は、これまで日本にはほとんどいなかったと思うが、実際に就活塾のようなものは乱立していて、実質的に就活へのアドバイスを欲している学生は少なくなかった。就活塾と人材紹介とは全く違うものだが、今後、新卒採用に通年採用やジョブ型雇用が一般化していく過程で、人材紹介会社は、大学生に対しても中途採用の転職支援と同様なサービスを提供できるようになっていくのではないだろうか。企業も新卒の一斉採用にかけていた労力とコストを見直し、今後は人材紹介会社を使って、優秀な若い大学生を早期に獲得する方向に変わっていくかもしれない。その全体的なトレンドのムーブメントを先を見越して戦略的にとらえ、自ら企業に提案していくことができれば、人材紹介会社には新たなビジネスチャンスが生まれるのではないだろうか。